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コラム
焚き火哲学*08
『哲学とは⑧四原因説(内因説)』

独り火に向かい、その暖かさと燻煙、薪の爆ぜる音を五官で感じる時、人は煩瑣な日常から解放される。炎を見つめながら物思い、物憂う中、人は誰もが哲学者となる。本連載は、そんな孤独な炎を共有し、誌上で語り合わんとする試みである。

― Sgt.キャンプ

アリストテレス登場!

今回はアリストテレスの認識論、世界観についてお話します。プラトンの弟子ながら、プラトンの考え方に真っ向から異議を唱えたアリストテレス。上から(外から)物事を定義するプラトンの「イデア論」に対して、下から(内から)の定義を試みるアリストテレスの「四原因説」。

有名な「イデア論」と比べれば、「四原因説」の知名度はだいぶ下がると思われますが、僕が重要視し、支持したいのはアリストテレスの方です。まずはその「四原因説」の解説から始めていきましょう。




四原因説

アリストテレスによれば事物とは「質料因」「形相因」「作用因」「目的因」の4つの原因から成るとされています。合わせて四原因ですね。これを簡単にするために「イス」を例にしてご説明しましょう。イスにもソファからスツールまで色々な種類がありますが、ごく普通の木製で4本脚のイスを頭に思い浮かべてみてください。

すると最初の2つはもう説明されています。そのイスの「質料因」は木材で、「形相因」は4本脚となります。要は何の材質で出来ているかが「質料因」で、どんな見た目、形をしているかが「形相因」となります。そして職工さんがそのイスを作る過程を「作用因」と呼び、そのイスに「座る」という使用目的を「目的因」と呼びます。

単にイスを4つの見方で分析して、定義付けをしただけです。「何でできているのか」「どんな形状なのか」「どのように作られたのか」「何のためにあるのか」という4つです。プラトンが天の上から、外から定義付けようとした反面、事物はその事物そのものから決まるのだと言うのがアリストテレスの主張です。




内因説

でも僕自身は、その4原因自体にはさほど関心はありません。もちろん哲学界では精緻で深い議論がなされてますが、僕たち素人にはちょっと細かすぎるので、いつかの機会にとっておきましょう。さらに先のお話に進みます。

本質は事物そのもの、物自体から決定する。このアリストテレスの説はよく卵や種(たね)の話に発展します。ニワトリの元が卵の中に眠っている。巨大な大木の元も種の中に眠っているとする説です。卵の中にあるニワトリの元がヒヨコとなり、成長してニワトリとなる。種の中にある元が土中から芽吹いて、若木になり、大木になる──これって遺伝子、DNAの発想ではないですか?

さらに話は止まらず、やがて大木は切り倒され、木片が切り取られ、彫刻家の手によって彫り出される──完成品となる木の彫像、その大元も最初の種の中に眠っているのだとアリストテレスは説きます。大学の入試では、よく現文の問題の中で取り上げられるモチーフなので、お読みになったことのある方もいらっしゃるでしょう。彫刻家は、種の時点から彫像になることが決まっていた運命を、彫り出す手伝いをしているに過ぎないのだと。

ここまで来るとイデア論同様、科学的には少々逸脱しているところも感じますが、それにしても驚くべき慧眼だとは思いませんか。遺伝の法則は1860年代、遺伝子の発見は1940年代です。つまりは2,000年以上前から、ただ世界のあり方を観察し、考察するだけで、近代以降の科学を予見するかのような理論を構築していたのです。

そしてこの内因説は、原子や分子の存在を前提にしているようにも思えます。原子・分子の概念が確立したのは19世紀前後、その存在が実証されるには20世紀を待たなくてはなりません。ライプニッツという哲学者は、その原型とも言える考え方を17世紀に提唱していましたが、紀元前のアリストテレスには到底敵いません。現在のような実験装置も、観測装置も存在しなかったというのに。なんというタウマゼイン(驚異)!




フロネシス

このような先見の明は、アリストテレスやライプニッツだけに限らず、中世や近代──各時代の様々な哲学者の思想にも散見されます。さすがは「すべての学問は哲学に通じる」「あらゆる学問の祖」と言われるだけありますね。これが哲学の面白いところです。

現代の哲学者たちの思想も、半世紀から数十年ほどは時代を先取りしていることがしばしばです。ぜひ皆さんにもそんな著作をお読みいただけると嬉しいですし、機会があればこの連載でご紹介していきたいと思います。

しかし実は、肝心のアリストテレスがまだ終わっていないのです。僕が大好きな彼の思想、哲学界でもあまり取り上げられることはないけれど、一番重要だと思える概念──「フロネシス」という言葉を説明する前に紙面が尽きてしまいました。前回に続いて再度、計画性の無さが為せる技です。次回に、続けさせて下さい。











Author
Sgt.キャンプ
キャンプ歴35年、市井の思想家。