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コラム
焚き火哲学*26
『SM論⑥平和なキャンプ』

独り火に向かい、その暖かさと燻煙、薪の爆ぜる音を五官で感じる時、人は煩瑣な日常から解放される。炎を見つめながら物思い、物憂う中、人は誰もが哲学者となる。本連載は、そんな孤独な炎を共有し、誌上で語り合わんとする試みである。

― Sgt.キャンプ

義務感のキャンプ

楽しいはずのキャンプ。楽しみにしていた焚き火。でも時々、行くのが面倒になったり、義務感を感じたりするようなことってありますよね。一人で気楽に行けるソロの時はともかく、グルキャンやファミリーキャンプとなるといっそう──。

それ以上に──もしそのキャンプがお仕事、You Tubeやインスタの撮影やイベントになったりすると、好きだったはずのキャンプが嫌いになってしまうほどの強制感に襲われたりもするものです。

僕たちは楽しく見ている動画でも、作っている本人は大変なんです。キャンプを企画して、ギアの準備をして、カメラをセットして、喋ったり、調理したり、撮り直したり、編集したり──面倒くさそうですよね。

遊びだったはずのものが、義務になり、ルーティーンになり、苦痛になる。この逆転現象も、これまで論じてきた人間の本質。主客転倒して倒錯してしまう、人間の性(さが)なのかもしれません。




平和なお金

しばらく「交換」「経済」「お金」のお話が続いてきました。なぜ下賎なはずのお金、使われるだけの存在のお金が、これほどまでに力を持ち、僕たちを翻弄するのか。僕たちの頭上に神のように君臨し、僕たちは奴隷のようにお金のために働かなくてはならないのか。

全ては僕たちの大脳が抱える「カオス」──「自然の摂理に抗う人間の欲望」を抑え込むため。人間が社会を営み、協力して暮らしていくため。そんな分析を続けてきました。

実際、人類学者のフィリップ・グリァスンは「交換は平和をもたらす」という言葉を残しています。

前回触れた「沈黙交易」や「市場」の機能を研究し、市場の存在によって特定の場所に平和が保存されると彼は説きます。その平和が市場へ向かう道や人物にも広がることで、友好や歓迎のサイン、異人を保護する数々の慣習を生んだとします。こうして、平和の範囲が進展するんだそうです。

うーん──言い換えると、お金が神になることによって、僕たち信者は争わなくなるとも言えますね。たしかに同じ宗教に属する信者同士は争わないように思えます。するとこれまで否定的に論じてきた、貨幣への隷属──お金による僕たちの奴隷化も、まんざらでもない現象だとも言えそうですね。




グローバル資本主義

そして神となったお金は、今や世界全体にまでその勢力を広げています。三大宗教と呼ばれるキリスト教、仏教、イスラム教以上の存在です。それまでお金とは無縁だったはずのアフリカの草原からアマゾンの奥地まで行き渡り、信者の数を増やしています。グローバリズム、グローバル経済、グローバル資本主義と呼ばれる一大宗教に成長しました。

グローブ=地球。つまり地球全体を包み込むように発達した、資本主義経済。地球の裏側までインフラ、サプライチェーンが手を伸ばし、ネットや衛星電波が情報を伝え、それに伴いたくさんの人が各国を往き来しています。グリァスンの言う「沈黙交易」「市場」はグローバルマーケットを形成したのです。

彼の理論が正しければ、その交換、交易が平和をもたらすはずですから、世界はその分、平和になっているはずですよね。どうでしょうか?




平和な世界

ニュースを見ると、世界各地の戦争や紛争の生々しい映像が飛び込んできます。「ぜんぜん平和になんかなっていない!」という感想を抱かれる方も多いでしょう。しかし視野を拡げ、50年単位、100年単位で俯瞰すると、地球はずいぶんと平和になっているんですよ。

日本の戦国時代が終わったのは4世紀前、ずいぶんと昔ですが、ヨーロッパでは国取り合戦が100年前までは続いていました。植民地を奪い合う帝国主義時代が完全に終わったと言えるのは1945年、太平洋戦争終戦時です。

そこから、奴隷の国であった植民地が解放され、東西の壁も瓦解し、南アフリカのアパルトヘイトも撤廃されました。自由で民主的な国も少しずつ増え、豊かさも少しずつ浸透してきています。

まだまだ飢餓に苦しむ人、専制国家・軍事政権の圧政に苦しむ人、奴隷並みの労働に従事するひとは存在しますが、それも時をかければ次第に解消していくだろうと、僕はポジティブに見ています。




走り続けるマーケット

その理由は、熱力学の第二法則と呼ばれる「エントロピーの法則」が、世界における民族の拡散にもあてはまると考えるからです。

移民や難民もそうですが、グローバル経済でいうとブレイン・ドレイン(頭脳流出)──英帝時代から見られる、優秀な頭脳の持ち主ほど海外に出て移住していくという現象がそれを駆動します。いわゆる外資系につとめるエリートたちですね。いえ、今や企業そのものが海外へ進出するのがスタンダード。戦争なんか始められないほどに、マーケットの利害が混ざり合っているのです。

ただ難点は、交換は繰り返され続けなければならいない──経済は回り続けなければならないという原則です。グローバルマーケットはその回転を止めたら倒れてしまう自転車操業のようなものです。

回転し続けることで安定し、安定させるために交換し続ける。この主客転倒が今を生きる僕たちの平和なのです。




キャンプは続く

行きたいからキャンプに行く、楽しいから発信する。YouTubeでもインスタでも、それを続けているうちに生じてきてしまう義務感、強制感はこのグローバル経済の回転に似ているかもしれません。手段と目的が転倒してしまうところも含めて。

行きたくないけどキャンプに行く──というのもちょっとした負担ですけど、インスタやYouTubeの撮影のためにキャンプへ行くとさらに。そしてお仕事のためのキャンプに行くとなったらもう、その苦労は編集長がよく知っているんじゃないでしょうか。

しかしその苦痛を解決する方法をご提案するのが、本稿の目的のひとつでもあります。それを論じるにはもう少々お話を続ける必要があるのですが、とりあえず今回ひとつだけ言えることは、それでも回転し続けた方が良いのではないかってことです。

ほら、行ってみたら案外楽しかった。予想以上に良い画が撮れた──なんてこともあるじゃないですか。案ずるより産むが易し。Keep rollin’ !








Author
Sgt.キャンプ
キャンプ歴35年、市井の思想家。