軽キャンパーの未来
第10回『軽キャンパーの使い途(みち)』のラストでは、「仕事場として」「生活の場」として軽キャンパーを活用する人が増えていることを紹介しました。今回第15回は、その新しいムーブメントにスポットを当てて、「軽キャンパーの未来」を思い描いてみようと思います。
ノマド化する仕事と暮らし
昨年の米アカデミショーで「作品賞」「監督賞」「主演女優賞」を獲得したのは、フランシス・マクドーマンドが主演をつとめた映画『ノマドランド 』でした。皆さんはもうご覧になりましたか? キャンピングカー、バンライフそのものがテーマの映画です。
アメリカは、車社会としては日本の10年先、20年先を行っていると言われますが、この映画には主演を除いて、実際にモーターホームに暮らす人々が出演しています。まさに現在のアメリカの姿をハーフドキュメンタリーで描いているのです。
「遊牧民」を意味する「ノマド(nomad)」という言葉は日本でもよく目にするようになりました。感染症対策のために余儀なく始まったリモートワークもその一因とされますが、さらに大きなトレンドが働いているようにも感じられます。
それは「シェアリングエコノミー」「ギグワーク」「ミニマリズム」「FIRE」「プラットフォーム経済」などの、新しくてよく分からない用語たちが醸し出す新しい価値観の到来。時代の変化をも予感させています。
価値観の転換
自分の「好き」や「やりたい」を発信し、共感を得る場がSNSやYouTubeなどのプラットフォームとして既に整っています。この「なちゅガール」もそんな場のひとつかもしれません。若い世代の等身大のライフスタイルが窺えます。
メディアが発する完成されたエンターテイメントよりも、何気ない朝のルーティーンに視聴が集まったりします。お金をかけて完成された演出より、生活自体を楽しみ、仕事自体を楽しむことにプライオリティーが置かれているのかもしれません。
「お金を使わない若者」や「車やブランド品を欲しがらない若者」などとも言われたりもしますが、求めているものが、そもそも違うのでしょう。キャンピングカーや車中泊車も同じ車には変わりありません。同じようにその需要は減少していくのでしょうか?
そこで「軽」キャンパーですよ!!
ひと昔前は、キャンピングカーというとお金持ちの贅沢品のようなイメージがありました。別荘やヨットと同等の……とまで言うと大げさかもしれませんが、街中で走っていることもめったになかった印象です。
ところが現在、沈んでいるように見える車業界全体の中にあって、キャンピングカー界隈はすこぶる元気なようです。JRVA(日本RV協会)の2020年の統計によると、特に購買層の低年齢化が進み、増加率が最も高いのはなんと20歳代となっています!
「キャンピングカー」として販売される台数でこれですから、自分たちでDIYしちゃう軽バンの車中泊車を含めると、さらにその数は多くなるでしょう。「車を欲しがらない若者」たちの間に何かが起こっているようです。
セカンドカーとして定年夫婦が優雅に楽しむキャンピングカーの時代から、ファーストカーとして若者の仕事や生活の場として使われるような時代になれば、その価格帯から考えても「軽」の出番がまわってきそうですね。
荒野を切り開く若者たち
映画「ノマドランド 」では、高齢のノマドワーカーばかりが登場していました。それゆえにレビューを見ても評価が二分して、格差をネガティブに捉える人と、自由をポジティブに捉える人とが見受けられました。
しかし最近「ジェネレーション・レフト」と呼ばれるようになったアメリカの若者、特にZ世代の若者たちはどんな現状にいるのでしょう。彼らにもカメラを向けると、また別の評価が得られる映画が撮れるのではないでしょうか。
車社会も、IT社会も、日本の先を進んでいるのならば、未来予測のロールモデルとなるのかもしれません。あるいは日本とはまったく違うトレンドにあるのかもしれません。そもそも「軽自動車」という概念が(ほとんど)ありませんしね。
評論家がどう捉えようと、現実の世界は刻々と変化し、特に若者たちはその鋭い嗅覚で次の未来を切り開いていきます。開拓時代、オレゴントレイルを走る幌馬車も小型化が図られたそうですが、キャンピングカーも小型化が進んで行きそうです。
その先にはどんなフロンティアが待っているのか? 誰にも予測できませんし、決めつけられません。ただ皆、元気で楽しそうですし、古い価値観なんて一蹴してくれそうなエネルギーに満ち溢れています。 軽キャンパーの未来も含めて、楽しみに見守りつつ、応援していきたいと思います。