1年間、連載を続けてまいりました『軽キャンパー入門』ですが、前回で最終回を迎えました。お読みいただいた方々、最後までお付き合いありがとうございました。今回は、本でいうところの「あとがき」のようなものを綴らせていただき、連載を締めくくろうと思います。
短く、あっと言う間の1年間でした。その間にも世の中には様々な出来事が起こりました。特に今年は世界情勢的にも、経済的にも、(使い古された言葉ですが)「激動の1年間」であったと思います。
ロシアによるウクライナ侵攻、止まることを知らないコロナの余波、30年ぶりだという円安とそれに伴うインフレーション……。一見、そんな世相とは無関係なように思えるアウトドア業界、キャンピングカー界隈ですが、だからこそ思うところも多々ありました。
それはキャンピングカー、特に「軽キャンピングカー」の小っちゃなボディに秘められた可能性のようなものです。別に大型のキャンピングカーと区別する必要はないのですが、小さくて経済的であるが故に、その大きな未来が想像できるのです。
「ワーケーション」「ワークライフバランス」という言葉を頻繁に耳にするようになり、皆んなの考え方や価値観が大きく変わりつつあることを感じます。大都市に一極集中していた働き方やその場所が、拡散し始めています。
それは経済学者の森永卓郎さんの提唱する「トカイナカ」、徳島県美波町が牽引する「にぎやかそ」などに現れ、感度の高い人が移住を始める例も見られます。古民家をリノベーションしたカフェやコワキーングスペースも当たり前になりました。
資本主義の原則により大量生産された均一なライフスタイルから、各自が個性を求めて彷徨い、その土地に根付いた手作りの暮らしを築いていくマスカスタマイゼーション。万人がベンツとヴィトンを求める時代からは終わりました。
自然を愛でる人。家庭菜園に没頭する人。伝統を懐古する人。物作りやDIYに勤しむ人。街興しやコミュニティー活動に取り組んだり……アニメの聖地に住み始めたり……そのライフスタイルは多岐にわたり、各種SNSや動画を通じて発信されています。
バンライフや軽キャンパーのブームもその一環と言って良いのではしょうか。特に若者が古い中古車を自分好みにカスタマイズし、日本各地に旅立つ様子を眺めていると、古民家リノベーションのノマド版といった趣さえ感じます。
“Stay hungry, stay foolish……” ベトナム戦争の’70年代にはヒッピーやフラワーチルドレンが。中東湾岸危機の’90年代にはカリフォルニアンイデオロギーが。景気減退の国家低迷期にはポップカルチャーが開花するのが世の理りです。
日本でも野外音楽フェスティバルが浸透し、キャンプギアのガレージブランドが乱立し、即売会と融合したアウトドアイベントも週末毎に開催されるようになりました。今いちばん勢いのあるフィールドかもしれません。
この潮流が単なるブームで終わるのか。それとも10年後、20年後の未来に何かしらの爪痕を残すのか。予測の域を超えることはできませんが「Big Tech」のような隆盛をもたらす可能性も無きにしも非ず。期待できるベンチャーも芽吹きつつあります。
資本主義の終焉が叫ばれて久しい通り、事態は貨幣経済からの脱却へと向かうかもしれません。欧米で進行しつつある「Great Resignation」とも「Big Quit」とも呼ばれる波の到来です。
イェール大学助教の成田悠輔教授は「貨幣と現実の価値の差が縮まってきている」と指摘します。これはつまり、工業を中心とする第二次産業の時代より、コンテンツ産業の第三次産業の今の方が、貨幣の価値が下がっているという指摘です。
換言すれば、無闇にお金を崇拝し隷属化する人が減り、自らの幸福や人生の満足度、QOLを追求する人々が増えてきたということになります。「モノ消費」から「コト消費」へと経済が推移すれば、キャンプや旅に人が殺到するのも当然の帰結になります。
高価で豪華な大型キャンピングカーも良いのですが、そんな時代、お金もかからず燃費も良い、元気に日本中を駆け回る「ラナバウツ(runabouts:小型車)」が増えていきそうな予感がしませんか。
もちろん「車を欲しがらない若者たち」も「東京への人口集中」も、依然として続いてはいます。しかし、希望的観測を込めて「軽キャンパー入門*第15回」で述べた言葉を、ここに再掲載させていただきます。
評論家がどう捉えようと、現実の世界は刻々と変化し、特に若者たちはその鋭い嗅覚で次の未来を切り開いていきます。開拓時代、オレゴントレイルを走る幌馬車も小型化が図られたそうですが、キャンピングカーも小型化が進んで行きそうです。
その先にはどんなフロンティアが待っているのか? 誰にも予測できませんし、決めつけられません。ただ皆、元気で楽しそうですし、古い価値観なんて一蹴してくれそうなエネルギーに満ち溢れています。 軽キャンパーの未来も含めて、楽しみに見守りつつ、応援していきたいと思います。
長期にわたりお読み続けて下さった読者の皆さん、本当にありがとうございました。取材のご協力、写真を使わせて頂いた「なちゅガールズ」メンバーにも感謝とエールを送りたいと思います。伝説となった『Whole Earth Catalog』を真似て……。